車椅子から得られること

工事中に会社がつぶれたらどうするのだという声に、大きな変化を望まない、現状維持志向の高齢者が影響を受けることは、やむを得ないことだったのかもしれません。 結果、最初の「建替え決議」は全体での賛成率こそM%ながら、ひとつの号棟で3分の2の賛成を得られず不成立に終わりました。
これは、一団地内に数棟ある建物を一括して建て替える場合でも、当時は各棟それぞれ5分の4以上の賛成を得なければならないという決まりがあったからです(現在は団地全体で5分の4以上、各棟それぞれで3分の2以上)。 ところが、これを機に居住者の方々の危機感は高まり、本当にこのままでよいのかということを多くの区分所有者が真剣に話し始めたのです。
反対者を交えた各棟での懇談会が熱心に開催されるようになりました。 互いの立場に耳を傾け、はじめて運命共同体であることを実感したのだと思います。
この後、反対運動は急速に熱を失い、改正区分所有法の施行を待って実施された建替え決議では賛成者が似%を超え、建替え決議が成立しました。 二十数名の後、〈決議未賛同者も2か月の催告期間中に、ほとんどが参加の回答をしましたが、最終的には2名が残りました。
この2名とは話し合いを最後まで続けましたが効なく、建替え組合設立後、売渡し請求を行いました。 さらに、連日話し合いを続け1名の方は故郷へ転居されましたが、残る1名の務4方に対してはやむをえず仮処分の申立てを行いました。

そして、3回目の話し合いの場で和解が成立し、5月ようやく全員の明渡しを終えることができました。 萩中住宅での経緯に関して書いたことは、建替えの合意形成のごく表層的な一面に過ぎません。
建替えはだれにとっても大きな決断であり、それぞれの家族の将来に向けた生活設計に大きな影響を与えることは避けられません。 個々人が内面での葛藤を抱えながら、家族や隣人を思い、集団の構成員としての立場と運命を受け入れていく、その結果が合意形成だと思います。
反対者を説得するとか、5分の4を確保するということが合意形成なのではなく、集団が全体としてひとつの合意を受け入れる状況をつくり出すことがマンションの建替えにおける合意形成なのではないでしょうか。 私自身、萩中で最初の建替え決議に失敗するまで、合意形成というのは多数をとることであり、そのため一人ひとりを説得することが合意形成という「仕事」であるかのように、理解していました。
そのため、結果として集団の圧力で少数の方々を精神的に追い込むようなこともあったと、後で気づきました。 かこん後に禍根を残さないために、合意形成はどう進めるべきか、これまでの経験をもとに、私なりにそのポイントをまとめてみました。
@正しい情報と状況認識を共有する運命共同体としての当事者意識を呼び覚ますには、まず建替えや修繕についての基礎となる情報や、マンションがおかれている状況について、区分所有者みんなで情報を共有できるような環境づくりが必要です。
萩中ではニュースの発行や説明会、懇談会を頻繁に開催し、できるだけ多くの情報を伝えるように努めました。
同時に、各自の問題意識を喚起するよう情報の伝達方法についても工夫を施しました。 当初は、出席者が限られていた号棟単位での懇談会でしたが、こうした活動が実を結んだのでしょうか、建替えに反対していた区分所有者なども出席するようになり、徐々に互いの心情や団地の将来を語る機会をもつことができたのは成果でした。
A信頼関係つくり運命共同体として、互いの意向を思いやる状況が生れるためには人間関係が重要です。
しかも、日常的な管理の場合と、建替えの場合では求められる人間関係の質が多少異なるはずです。
日常的な管理は資産保全という現状維持が主目的であるため、基本的に「安心」できる関係があれば十分であるかもしれません。 しかし、建替えとなれば財産の処分や生活の大きな変更がともなうため、互いにもっと深い結びつきがなければ、周りに同調するといった行動を取ることに抵抗があるに違いありません。

実際、萩中でも建替え問題をきっかけに、それまでは表面化することのなかった管理組合執行部などに対する不満が表れ、団地内の人間関係に影響を及ぼすことも発生しました。 建替えを検討するに際しては、情報を共有する上で、このようなリーフレッ卜を発行するのも一手公開や検討過程の透明度の向上などに心がけ、区分所有者との信頼関係を構築するように努めることが重要であると思います。
B組織づくり情報の共有にしても信頼関係づくりにしても、その主役は区分所有者自身です。

コンサルタントや事業協力者の関与にはどうしても物理的な限界があるため、区分所有者自身が合意形成活動の主体となって活動するための組織づくりが不可欠です。
萩中では団地内の共同体意識も強く、自主管理の実績もあることから、各号棟の代表者で構成する委員会(約50人)を中心に合意形成活動を行うこととしました。 まず委員聞の情報の共有化を進め、続いて各委員が自分の所属する各号棟(50人)の合意形成の核として活動できる体制をつくりました。
ところで、建替えの可能性の検討には建築計画や事業計画などいろいろな視点からの専門的な検討が必要となります。 区分所有者の中にそのような専門家がいることはごくまれなことでしょう。
現在のマンションの問題点や将来への希望などについて勉強会を開くのは大切な作業ですが、その進め方については、先にも述べたように外部から建替え専門のコンサルタントなどを招いて、他の事例などに基づいたアドバイスを受けたり、外部の組織に相談したりすることはぜひ行うべきことだと思います。 管理組合の中に検討組織を立ち上げる場合、それまでの有志の組織を引き継ぎ、新たに正式な管理組合の組織として認知し、位置づけます。
集団として、マンションの現状や未来についての価値観、問題意識を共有できる場をつくることが、ここでの組織の大きな役割になります。 そのためにも総会の場で今後建替えについて公式に検討することを確認することが重要です。
勉強会をスタートさせる場合、一般的には「建替え委員会」「建替え計画委員会」などの名称の組織を、管理組合の中の専門部会的な組織として立ち上げる場合が多いようです。 ただし、組織のありようや名称などはそれぞれの管理組合の特性やそれまでの検討の経緯に応じて柔軟に考えればよいことだと思います。
大切なことは、基本的な姿勢としてこの段階では建替えと修繕とを公平に比較検討し、組合員全員で知識の共有化に努め、建替えだけを前提とした組織でないことを明確にすることです。 はじめに建替えありき、という印象を一般の権利者が抱けば、その後の合意形成などで信頼関係が失われる原因となることも十分考えられます。
マンションの将来に対する熱い思いは大切ですが、組織の運営に当たっては、さまざまな考えの権利者がいることを十分に想定した慎重な対応が必要です。 委員の人選についても、どうしても日頃から熱心に活動されている方が中心になると思いますが、いつも囲定的なメンバーだけで勉強をしたり議論していると、知らず知らずのうちに他の区分所有者から遊離してしまう懸念がありますから、注意が必要です。


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